「………」


「王族を抜けることになってもいいから、私と共に生きていくって」


うわ……

すごい。


「でも、王位継承権があるのはフランのみ。
フランに王族を抜けられては困るのよ。
実際、魔界にはきちんとした婚約者がいたみたいだし」


「それで、どうなったんですか?」


私が聞くと、チヅルさんは切なそうに眉間にシワを寄せた。


「あの人は、魔界へ帰って行ったわ」


「……え?」


「私と、お腹の子を残してね」


お腹の子って……

ルカ……?


「最初は両親に反対されたわ。
父親がいないのに、どうやって子供を育てていくんだって。
あ、もちろん、父親が悪魔だってことは言っていないわ。
言ったところで、信じないと思うし」


「そうですよね……」


「でも、私は何一つ不自由はしなかった」


「………」


「魔界から、すぐに使用人が来てくれたの。
フランがすぐに私のもとへ行けって、命令したみたい」


チヅルさんはそう言うと、少し疲れた様子で車いすに座った。


「それからすぐにここへ来て、ルカを産んで育てたの」