「ごめん、ねぇちゃん、兄ちゃん。」


固い表情で、呟いた一言。

姉貴は雛乃へと駆け寄り、額に手を宛てた。


「……冷たい、風邪ひいちゃう――。早く、お風呂に…っ」



青ざめて雛乃の手を引く姉貴に、水浪アニキから事情を聞こうとする水哉アニキ。

この場で微動だにせず、ただ成り行きを見つめるのは、オレ一人。




「ヒナのヤツ、帰らないって、聞かなかったんだ。」


唐突に、水浪アニキの声が耳に入る。


「帰りたくないって、帰れないって、ずっと。
だから、知香子ちゃんも一緒に説得してもらって……やっと、な。」


聞こえてくるその事情に、頭の中で何かがひっかかる。

そして、水浪アニキの、でも、という声が。


「……ヒナ、言ってた。ごめんなさいって。初めは、帰らなくて…っていう事だと思ってたんだけど」