しんと静まり返ったその場所に、雪が降っていた。


美冬が泣いているのを消せもせずにはたはたと落ちる雪は、美冬の肩を震わせていた。


 寂しい白い雪 真っ赤なお目めにうつらない
 寂しい白い雪 真っ赤なお手てを狂わすの

 

童歌でも歌うように美冬は繰り返し呟いている。


「母様、どうしたの?」
 

襖の向こうで獅子が様子をうかがっている。


けれど美冬には獅子が自分の子であるという自覚がなかった。


母様、母様といつも呼んではくれるけれど、乳をやった覚えもなければおしめを変えてやったこともない。


それは全部、滝がした。美冬の妹の滝が、生まれてすぐの獅子を連れて行ってしまった。
 

美冬は生んだだけ。ただ生んだだけなのだ。