パシッ。


塵のように男の手をはらい、アイツの腰に腕を回して抱き寄せる。


「何か用ですか?コイツ、俺のなんですけど。」


ゴミ同然の男の視線は、俺の顔と、床に落ちた黒い物体とを行ったり来たり。


目を見開いてアホ面してやがる。


まあ、無理もないだろう。


だって、今の俺は――


「おっ、お前、かっ、神崎拓真!?!?」


男の動転した声が店の中を突き抜ける。


一気に騒めきだす店内、瞬く間にできゆく野次馬。



そう、今の俺は

“山田太郎”じゃなくて、

“神崎拓真”なんだからな――。