門限9時の領収書


じっくり観察している結衣の隣に並び、ガチャガチャのカプセルには何も入っていないことを説明したら、詐欺だと笑われた。

そして「もやもやマーチャン大豆」と、TVのネタを挟んで畳みかける結衣に、今度は洋平が吹き出した。


使い道がないので弟に譲ろうと考えていたが、

彼女の笑顔が見れたので、とっておいて良かったと昔の自分に感謝した。

ほら、過去の判断は今に繋がるから――と、うざい持論が始まる予感がするので、シカトしておこう。


週ニ、三のアルバイトだとお給料も少ないので、インテリアに凝れる余裕がない。

というより洋平はまあまあ清潔に片付いてさえいれば、部屋にはあまり興味がない。

単語で示すならシンプルめなアメリカンポップな雰囲気? ハテナが付くくらいそっち方面には自信がない。


「綺麗過ぎたりオシャレ過ぎたら、ね。どうしよって思って。ちょうどかわいー……」


だから――――これから繰り広げるつまらない会話に洋平たちが笑える理由は、

そこに恋愛感情があるからだろう。

お互いに好意がなくて、価値観が噛み合わないなら、全く面白くない無駄話。


「黒でまとめる殺風景な部屋ってさ、イケメンが住むなら様になるけど、ほら、凡人が、俺がそんな部屋だと必死な感じ、分かる? あはは。

だからさ、それは関係ない、はは。部屋。格好良すぎると落ち着かないじゃん」

「あー! 分かる、ウケる、それほんと分かる、イケメンお金持ちイコール全体的に黒でまとめられた部屋で生活感がなく家具がなくー……みたいなのってなんで?

分かるーほんと分かるっ謎な先入観ある! ウケる、お決まり、あはは」


あるある話は楽しくて、お互い顔面に構うことなく、感情のままに皺を刻む。

たとえ彼によるくだらない雑談をつまらないと思っても、

ダイレクトに白けず、相手と同じテンションで盛り上がれる内面をしている結衣が大好きだ。