門限9時の領収書



 ……。

なんだか付き合う前の職員室、あの時のことを洋平は思い出した。

一年の時のこと――遅刻をしてしまい煩わしい気分で入室許可シートを取りに行くと、

たまたま職場室で結衣にバッタリ遭遇し……


……振り返ればあの頃、既に自分は彼女を好きだったのかもしれない。

恋心に気が付くのは、誰だって遅れがち。


――いつも洋平を驚かせるのは結衣。

そして決まって続けざまに浮かぶのは雅だったりする。


「部屋、綺麗……てゆか、広い、なんで、……ふ、過保護?」

ぽかんと部屋を見渡す彼女に、あっち半分は弟の部屋だと言っていた。

……洋平は咄嗟に嘘をついてしまっていた。


ホワイトデーにワンピースで口説いたのに、これまた服服服だと、狙っていると思われたくない為

また服の作業部屋だと説明するのが恥ずかしかったからだ。


「ふは……あは、は。なんか、あれだ。ね。インテリアー……より、小物好き? 可愛いー」

触って良いかと確認してから結衣が弄るのは小指サイズの兵隊の人形。

  …………。

人の物だからとむやみに触らない感じに育ちの良さが窺え、好感度が急上昇した。

たまにスーパーやら服屋さんやらで、母親が幼稚園くらいの子供をほったらかし、

ベタベタ商品を触らせる躾の行き届いていない感じが見られるが、

(壊したらお金さえ払えばなんとかなるという考えが奇想天外なアイディア過ぎて、共感しがたい洋平だ)、

彼女はそういう子育てをしないのだろう、……と、勝手に妄想した。


誕生日に友人がくれたガチャガチャをパロッた玩具や、

キャンディータワーのせいで、余計に可愛いと思ったようだった。

男として“可愛い”と言われるのは真に微妙なはずが、

カッコイイと褒められるより妙に嬉しいのは何故。