門限9時の領収書


洋平が無難にオレンジジュースを選んだのは、暑くて喉が渇いたなら炭酸は一気に飲めないだろうし、

火照った体には お茶より糖分が欲しいだろうし、

――何よりご飯屋さんで結衣は日頃からオレンジジュースを注文するからである。

本人たち以外からすれば全く関心度が上がらないエピソードなのだろうけれど、

彼女を好きでやまない彼氏は、分かりづらい愛情表現を地味にしていたりする。


階段を一段一段上がるだけで緊張に胸が狂い、

まるでコンペに出す衣装のミシンがけをしている時のように、高揚したままだ。



焦げ茶色の扉を開けると――……


「、うわ、……?」

「っわ、? あ、びっ、びっくりした……あは、忍び?」


ドアの前に突っ立ったままの結衣が居た。

お互いびっくりして、あまりのオーバーリアクション具合にまた笑いが起こる。

顔の作りを気にせず、頬肉を盛り上げて豪快に笑う彼女が好きだ。

例えば海に行く時に日焼けを気にするような、例えばバーベキューをする時に虫刺されを気にするような、

それではなく自然体に振る舞う感じが好きだ。


きっと今、太陽も笑ったはず――……ああ、恋に熱をあげるから今年の夏は猛暑の予想なのだろうか――

ほら、つまらないジョークを噛ますのが人生滑り倒す洋平という男。


しかし、その痛さが彼らしさであり、結衣が惚れた事由でもある。

詮ずるところ、このカップルはかなり性格バランスが良いと思われる。