門限9時の領収書


小学生の頃に一番居座っていたキッチンにたどり着いた瞬間、緊張感が突然増したように思えた。


「……。」

  やばいな……緊張する

 、なんか……

初彼女ではないのだから、どうしてここまで緊張するのか。


この戸惑いから今日中に抜け出せるのか――洋平は一人物思いに耽った。

必然的にいつものツマラナイ独り言がスタートする。


――たかがコップ、たかがお盆、コースター、ストロー、全て悩みまくった。

気合いを入れすぎるとダサいし、生活感がありすぎるとガッカリされるだろうから、

先日学校帰りに雑貨屋さんで買ったのは、男女兼用OKな水玉模様のグラス、

数年前から流行りなのかシリコンのコースター、お菓子を入れるのにぴったりなカゴ。


……馬鹿みたいだと思う。
男なら手でコップを持ってお菓子は小脇に抱えれば良いはずだ。

……が、結衣はきっと丁寧な人が好きなのだ。

だから、必要ないお盆を使う。
――彼女に限り、洋平はばりばりカッコつけしぃだ。


愛の見せ方が分からないから、こうやってくだらないことで愛をこだわる。

もちろん、自己愛あってナンボなので、そうやって結衣を想う気持ちを間接的でも丁寧に扱える自分が好きだったりもする。


ケーキは小腹が空いた時間に食べたらいいだろう。

緊張するばかりで胸が苦しい。
オシャレなカフェでカタカナが並ぶメニューを読めるか意気込むくらい落ち着けない。

(ついでに外国語の料理を雰囲気で注文したものの、いざ運ばれて来た食べ物は想像とは違ったりするのは何故)


  、あ!! 飲み物聞くの忘れた!


冷蔵庫の前で硬直すること十一秒。

洋平としたことが恋愛研修生ばりのニアミスではないか。

何が飲みたいか尋ねるお決まりの会話さえ忘れる程、自分が思っているよりも緊張しているようだ。


  ……。

だからどうしてこんなに緊張しているのだろう。情けないったらない。

さっきから緊張という単語を羅列しすぎだが、洋平は語彙が乏しいので緊張しか浮かばない。

大人らしく演じたいのに緊張で困る。