門限9時の領収書


「スリッパ可愛いー、おばちゃんセンス良いー」

大好きな結衣が侵入すると、たちまち世界が変わる。

ハンバーグソースを作る際にバターを一欠けら入れたら味に深みが出るように、奥行きが生まれる不思議。

キラキラキラキラ眩し過ぎて洋平は困ってしまうばかりではないか。


「休日スタイル、近藤洋平センス良しってメモしとくよ」と、おどける彼女に、

ただのTシャツにただのチノパンを好意的に評価されたようだ。

(洋平はチノパン大好きで、何本持っているか把握しきれていないし、似たようなものばかり買ってしまう)


今日の彼氏の格好――外出しないのにオシャレオシャレしていてもアレだし、

かといってリラックス全開に部屋着というのもアレなので、

頑張って気楽な地元着を心掛けた。

些細なことが、なぜいちいち気になるのだろうか。
たとえ結衣が街中デート用だろうが部屋着だろうが構わないのに――



「あはは、ベタに。ケーキ、とか」

「あらあら悪いわねー、とか。はは、ありがと」

ドット柄が可愛い紙袋を受け取りながら、洋平の部屋は二階の一番奥だから先に行っておいてと説明したが、

何故か結衣は黙ったまま動かない。

自室はクーラーを効かせて空調をいい感じに涼しくしているのだけれど。


  ……、?

「ん、なに?」


まだ三ヶ月、もう三ヶ月。
好きな子が無言でも、洋平は少しだけ彼女の変化が分かるようになったはずだから、

何かあるのかと、優しく微笑んでみせた。



……たかが三ヶ月でエスパー気取りかと白けずに、『愛がなせる技なのね』と、

ぜひ感動していただきたい。

このように彼氏は彼女についてならなんだって把握できる生き物だと自負しまくる節があるのは、

高校生のピュアさがパワーとなる自称・神業。