――家に呼ぶ、密室、それが意味すること。

もう小学生ではないのだから、TVゲームをしてお菓子を食べて漫画を読んでバイバイにはならない。

洋平だって年頃なのだ。
考えない訳ないじゃないか。

手を繋げないのは、良い感じの雰囲気を察知した結衣が、

いつもモジモジとスカートを握って恥ずかしがるからだ。

……準備ができていないのに、無理やり手をさらえない。

たかが手、男なら恋愛ビギナーである彼女のペースに合わせたいじゃないか。


そんな結衣、本当ならキスなんてし放題だ。

無防備な女の肩を抱き寄せるなんて、それこそ今すぐに出来る。

右手を伸ばし後頭部ごと包み込んで……簡単。本当に簡単。そんなチャンスなら腐る程あった。

キスどころではない、服を脱がす隙ならそれこそ死ぬ程あった。

それをしないのは、彼女が好きだからだ。

――好きだから出来ない。

何よりも大事だから本能よりも理性に従いたい。


けれど、もう三ヶ月経った……



名前を呼ばれ、我に返る。


“近藤くん”

――だから、どうしてこんなに情けないのか。

洋平とか洋とか、下の名前で呼んでくれたなら……少しは。


「、あ……ううん、うん、じゃ、またシフト合わせて計画しよっか。手土産はケーキで」

自分が笑えば、結衣が笑うと知ってしまっている。

だからいつも汚らしい妄想をした後は、取り繕うようにとびきりの笑みを作ってしまう。

きちんと演技ができることが、たまに苦痛だ。


家デート。三ヶ月。恋人。十六歳。

彼氏の自分が望むこと。
彼女が笑顔になる方法の一つに加われば良いのに――……


お天道様はいたいけな少年を応援しているかのように、さんさんと輝いている。

ぼやけた予鈴が校舎の隅に漂っている怠惰感を盗んだ。


…‥