門限9時の領収書


ややこしいこだわりのある自分を、ありのまま受け入れてくれる結衣に感謝だ。


「あ、新しいアイス屋さん、オープンしたらしいよ。地産地消の。今度行こうか? 美味しって」

“女の子は甘いモノが好き”というベタな思考なのは男兄弟だからだろうか。

さしあたり結衣は甘党なので正解だから(夢見がちな)面目は保てる。

自分は滅多に甘いモノを食べないのに誘った理由は、幸せそうな彼女の顔が見たいから。


が、女友達の小崎と木曜に行く約束をしているらしい。少し残念だ。

「そー、太ってらっしゃい、あはは」

「もおー死去!」

プンとホッペを膨らませる幼さが好きだ。

これは所謂 怒ったフリで身内のノリ。

わざとらしく武勇伝自慢をする誇張した感じに似ている。

むくれた結衣の頭に生えるのは鬼にある角ではなく、生クリームを泡立てた時にできる甘いツノ。

――彼氏にとって彼女は甘い存在。

たとえ、いまだにキス一つ盗めないとしても。


洋平はゆっくり三十回丁寧に噛むタイプなのだけれど、

女子がキュンとなるらしいのはワイルドな犬食いだそうで、

それでも方向転換できないのは彼の性分だろう。


「楽しんでいらっしゃいな」

「太ってきますからー」

本当は毎日こうやってべったりお昼を一緒に過ごすのもいいが、

洋平たち二人はそれを好まなかった。

“いつも恋人優先、友人は後回し”という自分になるのは嫌だったからだ。