「美味しいかも」
そう感想を述べれば、結衣が「かも?!」と、誇張気味に眉をつり上げる。
だから洋平は、「嘘ですゴメンなさいおいしゅうございます」と、おどけてみせる。
こういった学生ならではの無意味なやりとりが好きだ。
「うざー」と言いながら笑う――その茶目っ気ある顔が好きだ。
二人の中で、きもい・うざい・ムカつくは最高の褒め言葉。
笑いを生む最強のフレーズ。
気が合うのは貴重だと思う、同性でもこんなに心地良い人とはなかなか出会えない。
美味しいから まずいと言う。
それが自分たち“らしさ”だ。
開け放った窓から入ってくる風は控えめで――
冬の強風が夏に吹けばエアコンの使用率もグっと下がり地球温暖化予防に役立つだろうに。
と、軽々しく世間を見据えることが高校生クオリティー。
一段目には ちりめん雑魚と白ゴマを混ぜたご飯が敷き詰められている。
ちなみに本人以外はさぞどうでもいいポイントなのだが、
市販のふりかけではない点が、単純な洋平はキュンとなってしまうんだとか。
二段目は人参といんげんをササミで巻いてフライにしたもの、
かつおをまぶしたほうれん草のおひたし、ハート型の卵焼き、鉄分が推しのひじき、
ツナを詰めたプチトマトのカップ焼き、竹輪にキュウリやチーズをはめたもの、
カボチャサラダにブロッコリーを添えたものが彩りよく入っていた。
――お弁当は人柄がよく表れると洋平は思う。
ほら、また痛い少年による根拠がないおかしなお話が始まる。



