門限9時の領収書


運動場を眺める形になる三階の渡り廊下は、

学年指導の厳しい先生がやたら徘徊する場所のせいか、極端に生徒の気がない。

(見つかったら服装や頭髪、女子ならメイクをチェックされる恐れがある故、皆避けるようにしている)

その為、人目が気になるカップルには持ってこいの隠れ家的スペースと呼べるだろう。

……そう、洋平たちのような恋人に。


「二の腕がさ、ノート書くのたるいー」

待ち合わせ場所に見つけた好きな女の子。

大袈裟に右手を肩から振るってみせる結衣の仕草一つ、洋平をときめかせるには十分で、

いちいちこの調子では、いざという場面で心臓が持たないと危惧している。

なかなか一歩踏み出せない自分は、結局ヘタレって奴なのかもしれない。


結衣の初彼氏が洋平、洋平にとっては二番目の彼女。

経験がない訳ではないのに、何故こんなに骨抜きにされているのだろうか。

……不気味なことに自分がよく分からない。


「あはは、俺も。ミシンの高さリアルにやばい」

「ねー、あはは疲労、はい、ご飯」

渡されたのは彼女の手作り、愛妻弁当。なかなかポップな青春を味わえる瞬間。

また給食の高校でなくて良かったと感謝できる瞬間でもある。


「わーい、いただきます」

“わーい”なんて言っちゃう感じ、ネタとしてわざと演じる風にしているが本当の本当に楽しい。

……バカップルの彼氏気質を保持している自信がある。

幸せだから仕方がない、痛い面は付き合って三ヶ月の浮かれモードだから目を瞑るよう考慮していただきたい。