授業終わりのカウントダウンを終えた洋平は、即刻でノートや教科書を机に直した。
お昼休みを楽しみにしているのは、何もお腹が減っているからではない。
「じゃあ俺、行ってくる」
子供が玩具売場に向かうような満面の笑みを残す洋平に、
『はいはい』と、雅はいつもより高く口角を上げた。
なんとなく彼は後五センチで泣きそうな顔で笑う癖があるような……センチの単位が謎だけれど。
歓喜と悲嘆、対極な二つを融合させるなんて不可能だから、
どうせ頭の良くない自分の思い過ごしなのだろう。
多分、憶測。
恋愛をして幸せいっぱいな奴が笑顔を振り撒くと、他者の唇が自然と弧を描く。
この説が有力ならば、いつも好きな女を想い笑っている洋平は、
ひどく社会平和に貢献していることとなるのだろう。
――ほら、お気楽な脳みそ。
深く考えずに、ゆるゆると過ごせるのは、彼女に出会えたからだ――……
例えば待ち合わせ場所に向かう彼はスキップをしたり、鼻歌を奏でたり、
そんなスタンスで毎日を送れる不思議。
古びた廊下はバージンロードに見えるし、着慣れた制服はタキシードに思えるし。
優しい妄想は人を前向きにさせる人生に欠かせない作業なのだろう。
なんて、無理矢理ロマンチックにまとめておこう。
でないと、洋平アングルだと恋愛モノらしさが欠落し過ぎているから、
あまりに夢がなさすぎる。
その場のがれ感たっぷりだが、甘めな要素をこんな風にくっつけて、
ラブストーリーらしさを脚色していこう。
どうせ途中で忘れてしまうのだろうけれど。



