四角い教室に踊る冷気はクーラーのせい。
けれども苦手な英語は飛んで消えそうもない。
『答え合わせするぞ、三千子ちゃん、訳せー』
出席番号や日付、先生によって指名する法則が違う不思議。
明朗なタイプが多いせいか服コの授業は快活で、こんな風に先生と生徒の距離が近くあだ名で呼ぶ習慣がある。
当てられた三千子はというと、『えっと、私はー……無理でーす』と調子良く笑ってごまかせば、
『三千子ちゃんワル〜』『ちゃんとしなよー』と野次があがる。
和気あいあいとした空気が学生らしくて好きだ。
んー……
文法はさっぱりなのだが、洋平は何故か全文訳すのは得意だったりする。
きっと電子辞書で単語を調べたら済むからだろう。(雰囲気で訳すタイプだ)
中学の頃、英文がプリントされたオシャレな服を着ていたら、
塾で頭良い奴にプププと笑われてから、意識してロゴ入りモノは買わなくなってしまった。
ほら、イングリッシュ的なエピソードはそれくらいしかない。
ヤングな癖に洋楽も洋画も滅多に触れない……グローバルとは程遠い洋平だ。
お腹が空く三時間目の太陽は真ん丸に輝き、空から校舎を見下ろしている。
目線があの高さならば、物事の判別が変化するのだろうか。
――早く恋愛モノらしく彼女の結衣を登場させろと思うかもしれないが、
もうすぐ休み時間になるので少々お待ちを。
さて、ノートの右端に描かれたイラストは、のっぺらぼうの女の子。
F組の生徒は しょっちゅう落書きをする。
小学生の女の子が描くアニメタッチとは違い、美術の授業の下書きのようにスタイリッシュな作画。
んー……
浴衣作りたい
好きな子を想うと服が作りたくなるのは、不純なのだろうか。
疑問もあるが、あまり深く考えない。……理由は授業中だからということにしておこう。
本当は頭を使うことが面倒臭いからだ。



