民家からは明かりが零れ看板が目立ち始める頃、車のライトが壁に向かって作る筋は、
かなり積極的にメルヘン思考を働かせれば、天の川に見えなくもない。
――夜の空は恋人のもの。
暗がりはヘタレに向けた神様からの粋な計らい。
手を繋いで歩いても、皆の視線が気にならないように隠してくれる。
少年の左手には硬直している少女の右手。
力を込めて握りたいところだが、雪の結晶のように儚い彼女を壊してしまいそうだから、
彼氏は優しく丁寧に包むしかできないんだとか。
そんなもん普通に考えて女の子は頑丈なのに、全く男の子はなんて夢見がちで純粋なのだろう。
とっても可愛い心の持ち主の洋平は、とっても大事な結衣を想い、
……そっと手を解放してあげた。
…………。
たかが手で緊張しまくり沈黙を続け、気まずいオーラを出す彼女が不憫に感じたからだ。
しばらくすると、
「ね、木曜放課後さー愛美とか市井とか、皆で真剣に学校鬼ごっこしよ? 負けたら晩ご飯ゴチ」と、
いつもの調子で唇を動かすのを、やっと横目で確認することができた。
それで良い。それが良かったし、それが夢。
だから手を繋げなくても幸せだ。
「乗った、俺ハリセン係な? 首レース、あはは」と、洋平も洋平らしく楽しくお喋りをするまでなのだ。
七夕にファーストキス、イベントに乗っかるなんて日本人らしいし、イベントを大事にするなんてロマンチックじゃないか。
(でも年に一度しか会えないので、結衣は織り姫にはしないし自分は彦星にはしない)
絶対に大事にする。
絶対に。弟は絶対と言って絶対約束を破るけれど。
真夜中の空は誰のもの?
星を眺めるより、好きな人を瞳に映していたい。
手を繋ぎたいけど、まだ繋ぎたくない。
キスをしたいけど、まだしたくない。
抱いてみたいけど、まだ抱きたくない。
野菜は嫌いだけど、食べる。
くそ生意気な子供だけど、大人ぶる。
ゆっくり花を咲かせてみたいけれど、蕾のままでいてほしい。
矛盾の数が愛の証拠。
きっと星より勝る数。



