門限9時の領収書


両腕にひっかけた結衣のストールは、

かなり無理して洋平がおめでたワンダフル思想になれば、

織り姫さまの被帛に見えなくもない。



桃色のホッペをした結衣は、耳も首も腕さえも赤くなっている。


  ……。

好かれているか確かめたいなら、これで十分じゃないか。

別に抱かなくても、冗談一つで容易に熱をあげてくれるから幸せじゃないか。


いつもみたいに、「あはは、きついって」と笑う癖に、

白い肌を愛に染めているのは隠せない事実。


言わなくても見れば分かる。簡単。

たとえ見えなくとも大丈夫。
前に立った耳を引っ張れば、自分には愛の歌が聞こえるから。


「はは、うん、滑ってみた」

だから洋平は軽く首を傾け、丸い瞳を覗き込んだ。

そう、幼き頃に童話を読み聞かせされていたのは、何も女の子だけではない。

情操教育の一環か、眠る前には絵本を読んでもらい、男の子もしたたかさを学んできたのだ。


従って、洋平は結衣がときめくように八重歯を見せて、もう一度笑ってみせた。

ほら、ますます赤くなる彼女。


皆と比べて何を焦る?
こんなに愛されているなら天国じゃないか。

誰よりも幸せじゃないか。

笑顔がある関係は、きっと抱き合う関係より尊い気がした。

万福の発見をさせてくれる結衣。




――でも、女の子の方が一枚上手?

大好きな結衣が右足を左足の後ろに隠して膝を折り、

スカートを広げる要領でワンピースの裾を持ち上げてみせる。

きらり、ピアスが揺れた。


途端に洋平の胸は驚く程速いスピードで暴れだし、逆に赤面してしまう。

大切な記憶であるバレンタインデーを蘇らせるから――



キスしたくなるじゃないか。
抱きしめたくなるじゃないか。
ベッドに寝かせてみたくなるじゃないか。
なんて小悪魔なのだろうか。



「勝った、私のがキツイじゃん?」

彼氏の心境をシカトし、一人両手を叩いて笑う結衣に弄ばれているようで、洋平は舌打ちしたい気分だった。

それはそれは極上の贅沢。
誰にも分からない自分だけの幸福。