怒涛のパイナップル嵐で、踊り場からストップしたままの洋平を追い抜いて見上げる高さになった結衣が、
右耳に髪の毛をかけてから言った。
「これ終わらなくない? 果てしないって」
考えなくとも字余りなくピッタリ一階に足をつけるのはなかなか困難なゲーム。
「終わらないよ、長ぇよ、日が暮れるよ、日付が変わるよ、お腹空くよ……だから、ちょいと来てよプリンセス」
じゃんけんを作らずに、洋平は手招きしてみせた。
すると、プリンセスという冗談がツボだったのか、彼女は笑いながら一段一段ゆっくり下りてきた。
…………。
語り継がれる昔話、シンデレラ――鉄の靴を落としたことがキッカケで王子様と結婚したお姫様。
小さい頃から好きな男の子を落とす罠を聞かされて育ったから、
きっと今を生きる女の子は計算高いのだと思う。
おざなりにしがちな伝統を重んじるなんて、素晴らしいじゃないか。
同じ場所に立った二人。
「プリンス何ー?」と、まだ可笑しそうにツボを引きずる結衣は、
洋平が大好きな笑顔を止めない。
――彼女の小悪魔なところは、いつも笑顔でいるところ。
「近藤くん面白いから好きかも」
そう、こんなことを笑いながら適当に言っちゃうところ。
「面白くなくても好き、ウケる」
そう、こんなことを笑いながら軽々しく言っちゃうところ。
「あはは、褒め殺しか?」と聞けば、「うん、無理してヨイショした」と笑いながら雑に言っちゃうところ。
こんな性格が好きなのだ。
結衣の詳しい性格なんて知らないのに、洋平は知ったつもりで愛を唱える――――この浅はかさが笑えるじゃないか。
彼氏で居させてくれる彼女に感謝を伝える為に、少年は少女の瞳を見つめ、こう言った。
「……じゃ、素敵なプリンスから愛しのプリンセスに名台詞を一つ」
決して引かれないし滑らないし寒くないし臭くない魔法の言葉――(自分の中で最高に)ユーモアたっぷりで爆笑必須な甘い言葉。
「織り姫さま、ずっと好きでいさせてください」



