門限9時の領収書


青春の象徴、赤い夕日が西の奥へと消えていく頃。

朝の空は皆のもの。
昼の空は子供のもの。
夕方の空は学生のもの。
夜の空は恋人のもの。

でたらめに空を色づけるなら、ちょうど今は洋平たちが独占できる時間だ。


「グ リ コ」

元気な声は先程の恋愛モードをぶち壊し、相変わらずの空気を漂わせている。


「あ、二段だから何出しても私の勝ち! ウケる」

天使の輪が美しい髪をした結衣が、得意げに洋平を見上げた。


笑って膨らんだホッペが可愛いから、いつだって自分は愛くるしい程度に加虐心をくすぐられるのだ。

「え、ぴったりじゃなきゃまた最上階まで折り返すんですけど?」

スゴロクのようにゴール地点にたどり着こうが、字余りは許されない。

再び階段を引き戻すのだと、洋平が(今決めた)ルールを説明すると、

「へ、無限じゃん」と、不服そうに結衣が露骨に顔面を歪めてみせた。

女子高生らしいパンチの効いたヘンガオってやつ。


そんな悲惨フェイスを披露してくる癖に、

「あんた結衣ピョンとず〜っと一瞬に居たいんでしょ?」と、わざとらしく誘い笑いをする。

そうなると、洋平は「バレた?」と、オーバーリアクションをしてみせ、

二人は爆笑するしかないのだ。


それが近藤洋平による素晴らしき恋愛のシナリオ。


……これがクラスメートたち普通の女子生徒なら、上目遣いではにかみながらも、

『ずっとアタシと居たいんだねっ』なんてラブリーなことを言って、彼氏を感動させるべきラストシーン。

ラブラブ? 甘々? 胸きゅん? ピュア?


――だから、洋平は結衣が好き。
お花畑な世界を壊したがる結衣が好き。



「「じゃんけんぽん!」」

大きな手はグー、小さな手はパー。


「パ イ ナ ツ プ ル」

六段分コマを進め、こちらに戻ってくる結衣。

さっきまでパイナップルは五段だったはずなのに、六文字を容認――それが洋平による回りくどいうざったい愛情表現であり、

いちいち欝陶しい言動を目標に、これからも彼氏を頑張りたい洋平だ。