「チ ヨ コ レ イ トー」
淡い紫陽花色をしたストールが、結衣の華奢な肩で踊る。
不規則に揺らぐから、猫は飛び掛かっているはずだ。
足元と平行に斜めの天井は、世界が反対になれば滑り台になる不思議。
バレンタインデー。
ホワイトデー。
イベントを辿るなら、次はオレンジデー、七夕、夏祭り、文化祭、誕生日、体育祭、クリスマス。
付き合えている。
好きになってもらえている。
夜中に電話をする。
二人乗りをして登下校している。
隣り町にオープンしたカフェでデートをした。
洋平は結衣が好き。
そして好きな癖に矛盾している自分が憎い。
――階段の踊り場。
子供じみた遊びより、本当は大人の遊びがしたい幼さが嫌だ。
彼氏と彼女。
凄く厄介な関係だと思った。
拳を作って上下に振る。何を握り潰しているのか分からない。
……細い手がきれい。
「じゃんけ――?」
チヨコレイトをする合図を唱えずに、洋平は「俺、帰るよ」と言った。
「、なんで?」
きょとんとしている少女を好きな自分は何をどうしたらいいのか考えれば答えは一つ。
だって、そうさせたのはあの日の結衣の言葉。
ゲームの途中なのに黙って階段を降りた。
これが小学生で、サッカーや鬼ごっこの最中、負けそうだからとリタイアしたなら、
非常にワガママな子供だろうに。
白いスニーカーがスプリングのように規則正しく落ちて行く。
「、え? じゃあ駅まで送――「ばいばい、おばちゃんによろしく」
慌てて駆け降りる結衣を無視して、洋平は一階へと急ぐ。
逃げ足は速い、スニーカーは動きやすい。
「待、……近藤くん?」
オルゴールの終わりかけのような頼りない声が耳を飾った癖に、
ゼンマイは巻いてあげなかった。
心に留まるメロディーは洋平を洋平でなくそうとするから、放置しないと揺らいでしまう。



