門限9時の領収書


エレベーターへと向かう背に、「ね、チヨコレイトしようよ」と、可愛い声がかかった。

いい年なのにじゃんけん遊びをしちゃう童心ある自分たち――という図が高校生ノリにはぴったり。

洋平たちを始め、学生カップルはわざと昔遊びをしてみたりする節がある。

だから彼氏が、「良いよ、真剣に遊びましょう」と、乗っかったのは誰でも予測できること。

(例えば息止め大会をしてみたり、靴飛ばし選手権をしてみたり)


「「じゃんけんぽん」」

小さな手がチョキ、大きな手がグー。

「グ リ コ」

洋平が三段降りると、また響くのがじゃんけんぽんのかけ声。


今度は結衣がパーで洋平がグー。

「パ イ ナ ツ プ ル」と、発音を懐かしみつつ、少女が六段進もうすれば、

「え、卑怯、それ五段だろ」と、少年がパイナップルのツはナとセットだと主張したものだから、

当然勝者は「うそー六文字だよ」と、反論した。

ややオーバーに怒ったフリをしながら。


彼氏である洋平はしたり顔で、「ローカルルール持ってくんな」と、冷たく言い放つ。

こういう安価な雰囲気が、三流の恋人たちにとっては幸福なのだ。

ツマラナイことを誇張し頑張って突っ込むのに、面白くならないから馬鹿笑いをする。

チョコレートが五なのかなんて本音はどうでもいいだろうに、お約束を守る為に尋ねる結衣はすっかり笑顔。

もちろんそれをイジるのがマイブームなので、洋平はおちょくるのだけれど。


「チヨコレイトで六だろ」

「えーっ! でたらめ」

「あはは、うん、適当に言ったから」

「騙したー詐欺ー」


ランドセルが似合うように二人ふざけておくと、どうだろう?

何気ない日常の中にはときめきしかない。

今を楽しみたいなら、今を一生懸命に満喫することが簡単な手段だと思う。


爆笑すればあっという間に二階まで勝負は続いていた。

どうやら暇人らしい遊びを追究することで、天使レベルがアップするらしい。

心が綺麗になったような気がした。