天井から落ちてくるクーラーの風が冷やす肌。ゆっくりと前髪が揺れる。
焼きプリンケーキはつとんとした食感が面白い。
カスタード系は余った卵白の活用法を考えることが億劫なので、家で作らず買うと決めている洋平だ。
たまに口にする糖分は刺激的でおかわりしたくなるし、幸せを食べている気分になる。
「美味しー嬉し」
ホッペを両手で包み、結衣が小さく極上の悲鳴を上げた。
こういう些細な仕草が可愛くて、洋平はいちいちキュンとなってしまう――
――――なんて、ありえない。
彼は異性に幻想を抱くタイプではないので、結衣がわざと乙女ぶっていることを知っているし、
今のようにギャグなくらい典型的なブリッコ言動をしないタイプであることも分かっている。
「今の可愛くない?」
――ほら、正解。
下唇を裏返し、変な顔を作る結衣がたまらなく愛おしい。
どっちかと言わなくても、「うっせ、黙って食え」と、自分が茶化せば、
「うわっ言葉の暴力、あはは」と、返してくる彼女のガチャついた反応の方が生き甲斐で、
捻くれた洋平の恋心は簡単に高鳴る。
爆笑が最高。笑った顔が見られるならなんだってする。
そう、キスよりも愛おしいお喋り。
いつも好きな子が生活している空間に居られることは、とても贅沢な幸せ。
もちろん結衣にとって自分が当たり前に調和することも後々幸福になるのだろうが、
今はまだ異物として、お菓子の国に馴染まない存在であることが最高に尊い。
ここには何一つ洋平のものがない。
すべてお姫様が暮らすに必要なもの――メイク台やチョコレートの花、香水やピアス。
それらは彼女のものでありながら、間接的に彼氏に繋がっているものでもあるはずだ。
……ウサギ
バレンタインの頃に彼女が首からぶら下げていたウサギのお財布は、きちんと飾られている。
それは多分、結構な愛の証。
キスマークより美しいはず。
――そしてオシャレに語るならば、ここにあるもので自分の私有物となるものは、髪の長い女の子だけだ。
なんて第三者からしたら、それはそれは破壊力がある発言になるのだろうけれど、
空想くらいは、お茶目に許してほしい。



