平常心が保てないらしく、予め用意していたDVDを結衣はすぐに再生した。
沈黙を埋めるには役立つアイテムとして学生内では重宝されていたりする。
雑誌ぐらいの大きさの画面が作るのはファンタジー映画。
お姫様モノなので子供対象かと思いきや、実はブラックジョークが隠れているから大人に人気なんだとか。
(変に夜めいたシーンがあると自分たちには気まずいので、ラブストーリーは敷居が高い)
並んで座っているから横目でしか彼女をチェックできないが、
やっぱり隣に居るだけで洋平はドキドキしてしまっている。
そんな自分自身を中学生かと情けなく感じるのは秘密。
「あはは、今のウケる」
「普通におかしくね? 実際居たら焦るし」
「素直とか良いなー笑ける」
「天真爛漫とワガママて微妙? はは」
「あんなドレス? ワンピ良いねー普通に着れない」
「痛くて可愛いな」
映画館なら我慢するけれど、家なら遠慮なくトークできるので、
映像を見たまま二人はエンドロール辺りで確実に忘れるであろう内容をダラダラと話す。
友人周りではストーリーに集中したいからと、自宅でもお喋りを慎む人も居る――つまり田上結衣。
お互いペチャクチャ無駄話をしながら映画を愉しむタイプなので、大変嬉しく思える洋平だ。
理想の彼女像を持つ人は夢見がちと言われ、現実が見えない奴だとされる。
だったら、ここに彼女として存在する結衣は何なのだろう。
この出会いに感謝したくて堪らない。
結衣に出会えない一生と、結衣に出会える人生。
あらゆるタイミングと、自分の過去の行いと、傍に居てくれる皆に感謝したい。
小学校中学校高校、遡れば両親――祖父母。
ほら、たかが恋愛をこんなに有り難がり、大袈裟に謙虚な心が持てるなら、
一過性の恋で終わったにしろ、未来に意味があるはずなのだ。
もちろん、洋平に今を体感させてくれるのはやっぱり結衣だから、死んでも継続する恋愛であるつもりだ。
ほら、また簡単に愛を謡うから虚誕臭い感たっぷりになる。
素直な気持ちを言葉にすると、綺麗過ぎて非現実的。
だから近藤洋平に限り、訂正しておく。今のはロマンチックな寝言。それでいい。



