どうやら緊張しているのは自分だけではないらしく、
結衣の引き攣った笑い方から二人ともが初々しく落ち着かないでいることが明らかだった。
こういう感覚が洋平は好きだ。
大人と呼ばれる頃には恋愛経験が増えるせいで忘れてしまうらしい繊細な淡さは今しかない。
小さな恋は可愛くて、ヘクセンハウスを作る手つきにそっくり。
脆いから壊しそうで怖くて、美味しそうだけど食べるのが勿体なくて――甘い魔女の家。
「可愛い部屋ですこと、あはは」
強張った空気も心地良いのだけれど、
もう少しリラックスしたくて洋平はいつも通りに冗談を口にする。
しっとりとした愛の言葉より、ガサツに捻くれた友人ワードを選びたい。
ダイレクトに解釈しちゃうなら、それが彼なりの真心を込めた愛情ってやつ。
「片付けましたし、お利口」と、同じく女の子らしくない発言をする性格をした結衣が好き。
惚れた理由の九割はわざと馬鹿を演じる価値観の一致だと思われる。
洋平はユニークな子が好きだ。相手を盛り上げようとする心がけが愛おしいから大好きだ。
そして残りの二割を占めるのは可愛さ。結衣の可憐な雰囲気が好きだ。
なぜかというと、おっとりとした見た目だからこそ、
ギャップからか雑なお喋りが余計に愉快だと感じられる為。
「マザー老けてる、半世紀生きたし? あはは。あ、座って」
間接的に挑発してくる魔のベッドは見ないようにして、洋平は笑いながら座椅子へと腰を落とした。
季節感を無視したチョコレートの香りが漂う部屋は、やっぱりバレンタインを思い立たせる。
「うちアラフォー、長男だし若いかも」
「うん、近藤くんてリアルお兄ちゃん、ウケる。気配り、誠実、はは。愉快犯なのは意外」
さらりと挟まれた言葉に反応してしまう。
――嬉しいじゃないか。
真面目なだけだと面白みに欠ける人だけれど、
バランスがとれていると言われているようで、やすやす喜んでしまうではないか。
どうして好きな人は相手を丸ごと包み込んでくれるのだろうか。
安心させてくれる柔らかな笑い顔を傍で見られるなら、大袈裟だけれど生きていて良かったと実感する。
――囁く愛は洋平に限り胡散臭いのは何故。



