『よーへ、宿題、見せて。プリント』
前の空いた席の主に断りなく座り、数学の宿題プリントを手にして微笑む男、市井雅。
彼は洋平の中でここ一年一番仲良しな友人だ。
高校生になると宿題を提出しない人は全くしないが、
下手すれば、この雅と言う男は予習さえも完璧に済ます末恐ろしい生徒である。
「珍し、バイト?」
『ん、もうすぐお姉様の結婚記念日? はは、色々と計画がありまして』
「ああ、へえ、良いなー。二年目っけ。赤ちゃんは?」
どうかなと微笑む彼の姉に直接会ったことはないが、
入学当初クラスメートの間で写メが出回った際に拝見した洋平はひどく驚愕した。
とにかく綺麗で――、美少女という単語がぴったり。
とりあえず写真を見ただけで普通にドキドキした。
赤ちゃんが男なら絶対に弟に似てイケメンになるだろうし、女なら姉に似て可愛く育つだろう。
将来有望なベビーだと言うと、雅は可笑しそうに肩を竦めた。
当たり前に洋平は男だけれど、彼のこういう仕草は可愛いと思う。
愛され上手と言うか、人の隙間に入るのが上手い。無意識に気を許してしまうオーラを出しているような……
なんて、悟りを拓いていないのでデタラメなのだけれど、
暇人な彼は常にあれこれくだらないことを掘り下げて考え込むことが趣味だったりする。
もちろん結論はない。
なぜなら悩むスタンスをとるのはパフォーマンスだけで、全く真剣に思案していやしないからだ。
そんな洋平が好きな言葉は適当や曖昧やうやむやというハッキリしない類いなんだとか。



