雑なクオリティーのお喋りから、実はお互い心境を読み取れていると洋平は思っている。
自惚れでいい、イニシャルYのカップルは無敵。
ビジューを強く握る。これは夢を叶えるお星様。
透明の壁の向こうには、灰色がかった薄い雲が月を隠している。
本当は結衣の携帯電話のメモリーから自分以外――家族や先生以外の男子を削除したい。
独占したくて堪らない。
でも、洋平が好きなのは皆に慕われている結衣だし、教室の中で皆と笑っている結衣だし、
狭いながらに広い世界で皆と接して成長する結衣だし……だから、この気持ちは罷り間違っていると分かっている。
それに、大切なことを忘れていやしないだろうか。
あの子は自分にばりばり惚れていることを。
思い上がりではない、きっと自信に繋がる事実――時にナルシシズムも必要だ。
『洋平って結婚してもしばらく絶対中ん出さない人だと思うよ? 泥酔してもお嫁さんに頼まれても。あはは、だから大丈夫だって。
全然いいじゃん、今しても。好き同士。あ、襲うのはなしで。はは。
それに洋平と田上さん二人なら楽しそうじゃん、俺二人ん子供なりたいから、はは』
携帯電話から鳴る無機質な単音は闇に溶けず、辺りを明るくする。
――やっぱり雅は凄いと思った。
迷走している友人にボタン音を聞かせ、まるでメールの片手間だから頭を働かせずに適当な話をしているのだといったテイを演出し、
かつ、笑いながら冗談でまとめるところが立派だと洋平は感じた。
ここでがっつり諭されても、素直ではない彼はきちんと聞く耳を持てず、中身は変われない。
けれど、ユニークなお喋りの裏に真意を隠してくれると、じんわりと伝わる。
……、
あれだけ一方的に喋っただけなのに、雅に打ち明けると洋平の心はすっきりとしてしまう不思議。
彼はいつだって結衣との恋愛を良い方向へとナビゲーションしてくれる人。
『おやすみパパ』
そして眠りの国へ優しくエスコートしてくれる人。
大丈夫、きっとどうなっても愛があれば。
最初は過去を信じることから始めたらきっと大丈夫。
まつ毛を伏せて、ロマンチックに浸る洋平もたまにはアリだと受け入れてあげて。
…‥



