門限9時の領収書


彼女である結衣と深い話をしたことなどない。


――白状しよう。
これは雅にさえ言わない洋平だけの秘密の未来物語。

本当はたとえ学生のできちゃった結婚になろうが、

結衣となら頑張るし親を納得させるし、中退でいいし夢はまた探して働くし――幸せなら良いのだ。

キザに決めるなら、心が裕福なら最高な人生。

だって好きな子との間に誕生した赤ちゃんなら、年齢なんか関係ないし大事に育てていきたい。

大人がお好きなデータやソースはないが、愛のパワーでなんとかなる。


それでも、でも、だって。
クリエイティブなコースの生徒である洋平は、妄想が得意。

そう、洋平は洋平だから洋平らしく愛を示したい。

結衣を好きなだけ。
そんな今、もしも赤ちゃんができたら?


……もしもの未来。

妊娠したかもしれないと気付いた時に、『どうしよう』と結衣を不安にさせたくないだけ。

検査薬を独りぼっちで買わせに行かせるようなことを結衣にさせたくないだけ。

産もうか堕ろそうか迷うような想いを結衣にさせたくないだけ。


だから――赤ちゃんがいつ生まれても金銭面で安心なくらい貯金があって、

仕事も安定してきて順調で、当然結婚して何年経ってもラブラブで、


……そんな未来。

嬉しそうに『妊娠したかもしれない!』と、打ち明けてくれる結衣を抱きしめたいし。

手なんか繋いで二人で薬局に妊娠検査薬を買いに行きたいし。

『赤ちゃん居るみたい!』と、結衣に報告され、やっぱり二人で腕なんか組んで産婦人科に行きたいし。

そして、『ご懐妊ですね』と、お医者さんに言われて、二人笑って抱き合いたいし。


もちろん、親に知らせに行くし、名前の本を買うし赤ちゃんグッツを揃えるし、育児事典を読みあさるし。


未来の結衣を笑わせたいだけ。
たったそれだけ。

不安になったり悩んだりするような――『妊娠したかもしれない』と、悲壮な顔で言わすような男にはなりたくない。

洋平が大好きな笑顔で、『妊娠したかもしれない!』と、告げる人であれるような環境を作れる男でありたい。


言葉足らずの為、非常に分かりづらいが、それが洋平によるちっぽけな夢。
儚い夢。いつだって皆が笑顔であること。