雅から返答がないので、眠ったのかと様子を窺った洋平が見つけてしまった暗闇に煌めく瞳は、
思わず目を閉じるくらいに清潔な輝きだった。
…………、
『今日。姉ちゃん結婚記念日なんだ。』
「え、……えー?! すげえ! めでたいな、あはは、二歳おめでとう!」
吉報を聞いてテンションが上がった洋平は、親友の違和感に気付けやしない。
弟の雅が洋平の家に泊まらせてくれと頼んできたおかしな様子は、
何か関連するのではと、鋭かったなら気付けたはずなのに。
「二年かー」
『おめでたいよね。結婚の次は赤ちゃんできたら完璧に奥さんは旦那だけの人になる。人生ゲーム実写版? あはは。
両思いじゃなくても赤ちゃん作れば田上さんって俺のモノになる?』
呪いの言葉――子供を寝かしつけるよう軽やに歌う王子様に驚いて、
返事もできずに庶民は黙って言葉を待つしかなかった。
なぜだか一秒一秒が重たくて、秒針の音を聞くだけで精一杯だった。
『俺が洋平なら。そんな大事に考えてるなら早く独り占めしたい。
はは、わざと妊娠させちゃって。独占したい、学校より家に閉じ込めて。あはは』
人を癒す優しい声をして、雅は自分なら生活が辛くても働いて、夢なんかいらないと唱える。
好きな女さえ傍に居るなら幸せで、世間に恥がないよう守ると続け、きっかけはどうであれ家庭こそ最高の夢だと笑う。
自慢の友人がふわりと奏でる真意は分からない。
固いビジュー、ダイヤモンドの強さがあるなら自分も雅のように果敢に愛を貫けるのだろうか。
指先に余るイミテーション。
……。
洋平の夢は自分の物だけれど、既に両親の夢でもあるから譲れない。
誰にも言ったことはないが、いつかの未来にウエディングドレスとタキシードをそれぞれ二着作って式を挙げることが大切な夢だ。
実を言うと、服飾コースでありながらファッション系を就職に繋げるつもりはなく、
将来は銀行マンになるつもりだ。



