ずっと、何かが見えなくて生きてきた。
でも、いつしか見えないものを見ようとすることは無茶振りであり、
エスパー級な神業を成し遂げようとするくらい不可能なことなのだと気が付いた。
「産めばなんとかなる、少子化なんだし? 堕ろすより。まあ産んだ方がいいし? ……いざとなればデキ婚な俺だってまっとうに生きてるし?」
少し間を置いて、洋平は笑った。
夜を刻む音は明日に近付くだけ隠したがっている気持ちを暴露させる。
言うつもりはないことを言ってしまうくらい――実は彼、なかなか悩んでいたらしい。
実際なんとかなったのかは謎だ。
父親も母親も夢を諦めたみたいだし、……だから洋平はあの時堕ろさずに産んで良かったと二人が思うような子供でありたくて、
彼らが後悔していないのかと今でも不安になる時もなくはないが、
自分を誕生させたから良平が居るのだから、
少なくとも今は確実に幸せなはずだから大丈夫だ。
“頑張ればなんとかなる”――なんて嘘。
あくまで父親と母親二人の話で、自分が父親で結衣が母親ならどうなったのか。
結衣は育児を放棄したかもしれないし、洋平はモンスター親になっていたかもしれないし。
全て背負う勇気がない自分が笑えた。だって気力もないし、現実に怖じけづく。
「んー……、洋平君の本音。俺は……夢を優先させたい。絶対。
なんかさ。十代の妊娠、この子を産みたい、頑張れば未来は幸せって最近トレンド?
それ微妙に違った影響あるくない? 素直な子ならそっかー学生でも好きならなんとかなるよネ、みたいな」
非道なことを口にしている自覚はある。
ただ、三流の洋平としてはもっと苦しい部分を訴えた方が良い気がした。
少なくとも今、洋平は結衣に赤ちゃんができたなら、「おめでとう、ありがとう、産もう」の三語は出てこない。
「どうしよう、怖い、ごめんなさい」となってしまう。
働いていて結婚している状況なら、「おめでとう、ありがとう、幸せ、頑張ろう、愛している、誇りだ」――洋平がたくさんの言葉を結衣と赤ちゃんにプレゼントできるのは何故。
好きな気持ちは変わらないのに、醜い自分をずっと見たくなかった。



