門限9時の領収書


もしもの話は大嫌いだ。
頑張らない時の逃げ道だから。

もしあの時ああすれば……後悔を今さらいじれないのだから、無駄でしかない。

ある程度反省したなら、対策を練り検討し、今から先をもしもで夢見ることを選びたい。


大丈夫。今さら十年以上前のことを両親に謝罪しきれないから、

同じ謝という漢字でも、二人には感謝をしたい。


「ちゃんと避妊してても出来る時はそーなんだけど。でもさ? 避妊してても先に身篭ったら。だらしないって決め付けて白い目で見る奴居るよ? ……居る。俺と田上さんは偏見の中、頑張れるかな?」


何を訴えたいのかまとめられなかった。

ただ、もし結衣が妊娠したなら、洋平が素直に喜べないのは事実だ。

なぜなら社会人として通用するものを自分は何も持っていないから。

好きだという感情など、ここはおとぎの国ではないので、生きるには二の次だ。

親に頼る前提の甘えたなお子ちゃまだと言われても、洋平はきっと黙るしかできない。

なぜかというと、今の自分は結衣や赤ちゃんを守れないから。養えないから。


どうか呆れずに彼の気持ちを汲み取ってやってほしい。

十六歳が一生懸命考える世界を軽蔑しないでやってほしい。


拳を握ると、手の平に爪が食い込んで痛いから、洋平はいつも解放するようにしている。
暗いと爪痕が見えない。


本当は考えたくないけれど、本当は考えたらいけないけれど、

中学生の時、ほんのちょっと悩んだりもした。

――ここに居て良かったのかなんて、父親にも母親にも聞けなくて。

洋平は洋平だから、やっばり疑問に思うだけで最低だと分かってしまっていたからだ。


居場所がないと訴えたり、独りぼっちと嘆くのは得意ではない。

だって、義務教育らしく中学校に籍はあったし、住民票の通り家に部屋はあったし。

屁理屈、地球に居る以上靴の下に居場所はあった。


だって、コンビニに行けば店員さんと関わるし、教室ではクラスメートと騒ぐのに、

孤独だと言うなんて、接してくれる皆に失礼だから良くない感情だ。

屁理屈、独りぼっちなら独りぼっちということに気付かない。

見えない繋がりを大事にしたい中学生だった。