もしも昔に戻れたなら――……
洋平は中学時代に帰って、元カノと付き合ったとしても、ファーストキスの相手が結衣になる今を選んだ。
もしも昔に戻れたなら――
母親は堕胎をするのか。
父親は認知をするのか。
自分はここに居るのか。
何もかもゼロかもしれない。
良平も居ないかもしれない。
二人が洋平の頃に流行ったアラフォー向けコンピレーションアルバムを聞くと、本当は凄く不安になる。
当時の歌を耳にしてあの時の決断を思い出すのではないか、と。
あの時ああすれば良かった――
つまり、後悔する存在である可能性の子供という自分が怖い。
のぞまない妊娠だった自分という生き物に罪悪感を覚える。
できちゃった婚に抵抗がある自分は、なんて冷徹なのだろうか。
赤ちゃんがいることが判明してから、どうしてすぐに籍を入れてくれなかったのかと尋ねることは勇気がないから、洋平にはできない。
『堕すことが怖くて悩んでいたら中絶できない時期になっていた』――なんて、もしも言われたなら立ち直れない。
待望の赤ちゃんではなかった自分が申し訳なくて――困らせる要因だった自分。
これはくだらない空想?
ちゃんと愛されている癖に、二人を疑うことは裏切りなのに、……十八年後の今もまだ悩む自分が欝陶しい。
結衣を好きな自分は大好きだけれど、結衣が居ない自分は大嫌いだ。
もしも魔法が使えて時間を操れるなら、二人はどんな未来を作るのだろうか。
もしも。
もしも、あの日に戻れたなら――
もしもをお金で買えるなら、人はいくら出すのだろうか。



