綺麗な世界を望もうが、現実には偏見がある。
どんなに立派な子育てをしても、デキ婚を基準にされる宿命があって、
そこを気丈に振る舞える意気地は今の洋平にはない。
星が綺麗に輝けるのは、深い闇があるからで。
日なたが暖かいのは、寒い日陰があるからで。
両親は今よりまだ古いと言われる世の中で苦労したようで、
洋平は構わないけれど、祖父母は二人よりたくさん悩んだみたいだ。
そんな背景を分かってしまっていると余計……手すら繋いでいないのに洋平は考えてしまう訳なのだった。
自分が未熟だと分かっている故に、
自分の至らなさから周りに迷惑をかけるであろう未来を頑張る力がないということも知ってしまっている。
そんな愚かな洋平は、“僕たち若いのに結婚して赤ちゃん産まれて頑張ってます”にはなれない。
生活を送る中で、結衣に八つ当たりしそうな自分が怖い。
こんなに中身がガキなのに、こちらの家だけではなく向こうの親戚にも影響する――支えきれない。
だから、だ。
彼女のペースに合わせていると言いながら、本当は洋平自身が“怖い”からクラスメートたちのように本能に従えない。
勇気がないから、簡単な口づけさえできない。
「もし、さ? 何もしてないから関係ないけど。今もし向こうに赤ちゃん出来たら、さ、……俺の夢は?
んー、周りの、家族の人生とか左右させてさ、俺は稼がなきゃだ、中退だ。夢より何より生活で。貯金とかゼロだし。先行き不安な不況なのに。
運命って済ましちゃえる?、とか。愛って言葉でなんとかなる?」
暗がりに消える言葉たちは透明だから、二度と集めたくはない。
話しているのは誰に?
十八年前の父親に?
十八年前の母親に?
誕生していない自分に?
あの日、父親にしてしまって、母親にしてしまったから、二人の夢を奪ってしまったのは洋平?
今ここにある幸せと、もう選べない違う道の幸せ。
もし両親が自分たちの頃に戻れたなら、二人は赤ちゃんにさよならをする未来を望んだ?
愛した結果の存在がもたらした今を悔やむ?
時々、考えてしまう。
シリアスは嫌いだから、考えないフリをしているだけで、本当はいつだって不安なままだ。



