門限9時の領収書


洋平の知り合いの先輩や友人周りにできちゃった婚は多くて、

まだ経験がない為、家庭を持つ感じは分からない。

想像では――やはり上手く思い描けない。

いつか結衣と結婚したいと夢見るけれど、それはあくまでもまだ先の話で、

明日明後日に起こるなら洋平は混乱してしまう。


つまり彼女を好きな恋心は“そのレベル”なのだ。

今を生きる自分が最大限に愛しているだけで、好きなだけで生活を築く気合いはまだない。

それこそ洋平が洋平として成長してきた結果の価値観。


だから、真剣に結衣を想う彼は彼らしく雅に持論を提供した。

様々な思考があるのだから自分が正しいとは思わないが、

自分が生きてきた十六年間の中では微妙に間違っている訳ではないと信じたい。


「あの、さ。雅、俺イマジネーション豊富な訳よ、そりゃクリエイティブなデザイナー専攻ですから?」

一度区切り、親友と目が合わないように細心の注意を払い、

シーツを被った洋平は、リクエストもされていないのに、相変わらず独り言を続けた。

重ね重ね注意していただきたい点は、あくまで三流らしい彼の個人的意見なだけということ。

だから、まだ成長途中の少年をどうか見捨てないでやってほしい。


「もしも、よ? 田上さんに赤ちゃん出来たからさ? んー、結婚したならそれで良いのかな、とか。

……先を考えたら、さ。ニュースとか虐待してんじゃん、俺はそうならないって言い切りたいけど、実際分かんないじゃん? だって世界が変わるんだし。

俺、は。立派な親になる自信ない。子供は好きだけど子育ては知らないし。もし、さ、そんななったら先を考えんの怖い。」


人でなしと言われようが構わない。

ただ洋平が洋平なりに想像してみると、例えば四ヶ月後に自分と結衣の間に赤ちゃんが居ることが分かり、結婚したなら、

めでたしめでたしお花畑で仲良く暮らしましたとさ――、という物語は難しくて、

発想力が必要な服飾コースの一員でありながら、うまく想像できなかった。