夜は輪郭を探せなくなる。
境界線が失われていく。


『お前元カノは?』

やっと分かった。
音しかない暗闇は自分と対峙できる気がするから素直な言葉が生まれるのだろう。

平常心なら開口しない気持ちは、黒を前にすると伝えたくなる魔法。


「普通に好きだったよ、初彼女って浮かれてたし。つか若いからガツガツ、多分。はは」

『ふうん』

お客様用の敷布団は低くて、彼と目が合うことはない。

雅の瞳は結衣の瞳と被るからちょうど良かった。

「好きだったし、普通に。ただ……、なんか、今思うと俺ないな。うん。付き合って二ヶ月? デート、イコールする、みたいな。あはは。田上さんなら引くな、はは」

情けなくはない、若いってだけの取り柄でもあるのだから。

別れた理由はきっと精神的な未熟さ。


ある日、元彼女が言った。

『皆カレシ付けないんだって。タイミングとかあるし大丈夫らしいよ?』

それは若いからこその好奇心、時に罪になる幼さ。

破局した理由は、平気で先行き考えない発言をする性格が無理だったこと……本人には高校生活が忙しいからと偽ったけれど。

そう、洋平は洋平であるから彼女の発言に全く共感できなかったのだ。

なぜなら、二人だけの行為じゃないと認識していた為。

世の中、学生の妊娠に否定的な意見があることを知ってしまっていた為。


中学三年生の延長だった交際、破局するつもりはなかったのに無理だった。

中身の価値観が合わないと隣に居ることが難しかった。


皆みたいに普通に好きで、普通に付き合って、普通に楽しくて……普通は想像するよりも難しい。

短命な恋愛だったけれど、お陰で成長できたので昔の恋人には感謝している。