雅の顔は見えなくて、見えないからこそ洋平は言えたのだろう。
「怖くね? そのままとか」
馬鹿な話をしていると黒髪の彼だって馬鹿ではないので分かっている。
分かっているけれど、こんなことを考えるのは、恐らく結衣を好きになりすぎてしまった結果なのかもしれない。
知らない、説明できない価値観。
『はは、女子?』
「え、怖くね? 笑い話じゃないから、なんか……俺絶対ムリ。俺ヘタレだから安全日とか関係ない、普通に。無理。あはは。
絶対ムリ、向こう薬飲んでてもばりばり怖い。怖くね? なんか……」
外だから大丈夫とか百パーセント妊娠する訳でもないからとか面倒臭いとかで、
同級生の知人で見ると、三割程が避妊を怠る感性はチャーミング過ぎて、洋平には分からなかった。
それに薬は体調が悪くなる子も居るみたいで、なんだか申し訳ないんだとか。
「てかさ、細いから俺余裕で壊しそう」と、呟けば、
『はは、きもい。俺今どんどん引いてるから。聞き役に徹します』と、返ってくる。
…………。
――これが雅相手ではないなら、言わない。
なぜなら八割の男は露骨な話を望むから、論点が下品な方だけにズレていく為。
けれど王子様は残り二割の方なので大丈夫――洋平は普段なら口にしないことをグダグダ解き放っていた。
しつこくなるが、何卒 彼を嫌わないようお願いしたい。
成長途中なので、少し迷走しているだけ。
「いざとなったら失敗しそう、はは。なんか手順めっちゃくちゃ、みたいな、あはは。でも良かった、田上さんならバレない」
比べられないから良かった。
一回きりを貰えるのは凄く貴重なことなんだと、不思議なんだと、洋平はしんみり思った。
どうか彼に引かないでいただきたい、これはティーンエイジャーが通る道。
皆が悩んだりすること。
皆とは皆なので、もちろん皆知っていることだろうけれど。



