兄にとって最大の弱みは、弟という生き物の玩具にされること。

その少年、無邪気を装い洋平を窮地へと追い込むのだ。


「や、それ誤解。紳士貫いてるから俺、あはは」

やはり皆にキスを済ませて当然と思われているらしい。

仕方ない、洋平はアクティブな高校生をしているのだから。


『お預け偉いね、上げ膳け。据え膳? はは。それより良平ってなんであんな煩いの? ハイテンション和む』

笑いながら話題を転換させる雅は、きっと自分の魅力を分かっていない。

彼の何気ない一言に、男でも心がほぐされる瞬間があることを。

話術というか空気を読むというか相手の心を知るスキルが高いというか。


――数時間前のことが、ふと洋平の脳裏を過ぎった。


  ……。

お風呂は明日朝入ろう。
とりあえず制服を脱いで部屋の主は適当に楽な格好に着替えた。


これから話すことは、正直 洋平だって恥ずかしい。
だから眠いと偽り、まだ十一時前だけれど電気を消した。


誰の顔も見えないと、一人だと錯覚できて自分と向き合える為、恐らく人は時々暗闇を好む。

だから女子は夜な夜なパジャマパーティーを開き、(信憑性が謎な)本音を披露するのだろう。


「、なんか……俺さー雅、が。はは、お前が居て良かった。きしょ」

『あはは、有り難い告白で』


理性なんてとっくに崩れていたから、洋平は本能のままに唇を動かした。


「なんかさ。さっき中学ん友達が来て、さ。バイト先。若いとさー? 会話そればっかっつーか。

んー……、彼女。なんか、ほら。週何回とか相性はーとか。そんなんばっか。で。なんか、そっちばっかで」


女子中高生は、さぞ引くことだろう。ハタチ以上の女性たちは大いに呆れることだろう。

低レベルな会話に。
ただ思春期の男子が集まると、陋劣な演説が繰り広げられるのは事実。

洋平だって昔は愉快に語ったらものの、乙女同様に下品なテーマが今は凄く不快だった。

だから、これは少し違う見方のお喋りなので、あまり彼を嫌悪しないよう宜しく願いたい。