それは最悪だった。

最低でしかなかった。


夜は淋しい。
隣に居てほしくなる。

いつも一人で居る部屋に――


「ただいまー」


『お疲れ、ずっとお兄ちゃんの話ばーっかしてたよ?』

下ろされた髪、柔らかく笑う表情……太陽とは違う顔をした人が居た。

そう、突然の宿泊客は他の誰でもない雅であった。


母親の話によると例の如く良平にベタつかれていたそうで、

兄がアルバイトをしている間、ずっとお守りをしてくれていたなんて少々申し訳なく思う。


『兄弟って似るねーなんか洋平あやしてるみたいだった』

「あはは。俺お前が女なら余裕で抱けるよ? お姉ちゃんに似てるし、はは」

とりあえずベッドに寝転がり、弟をお風呂にまでいれてくれた彼と雑談をしよう。

とにかく気分を落ち着かせよう。

洋平は平常心を偽ることに必死だった。


ご飯が美味しかったと雅が言うので、母親が料理で父親を落とした経緯を説明すると、ひどく納得していた。

そして、『俺ん家最高にマズかったんだけど』と笑う。

洋平としては、お金持ちの食事といえば、どこか有名なお店に委託していたり、

召使さんを雇っていたりしそうなイメージだったので、お口に合わないメニューがちょっと想像できなかった。


いつも無意味に過ごす部屋も、気のおける仲の友人が居ると教室のような感覚になる。

学校は主に三種類から成立している気がする。

全体的に静かなクラス、和気あいあい明るいクラス、いがみ合って殺伐としたクラス、

洋平が居たいのは、皆が充実している幸せなクラス。


『あ、キスしたんだ? 良が言ってたよ。結衣ちゃん独り占めするからお兄ちゃんずるいずるいずるーいって』


おめでとうと笑う雅――この人はいつも表情を崩さないから、

お面でも被っているのかと疑うほどだ。

きっとイケメンは元々の作りがお人形なのだろう。