『でもなー良、好きな人と好きな人しかキスは出来ないんだよ?』
突然父親が幼児を諭す目的なのか真面目トーンになるので、
思春期真っ只中な洋平としては大変居心地が悪い。
……。
首を傾げる弟に罪はないのだが、こちらの立場になっていただきたいものである。
『結衣ちゃんはお兄ちゃんとしかチューしたらだめなんだよ。好きって言う印だから、分かる?』
天使を追いかけたことを後悔し、洋平は聞こえないようため息を漏らした。
好きの証拠、とか
なんか、…………。
人口呼吸と幼少期の両親を除き、他の誰かが結衣の唇に触れるなんて嫌だ。
彼氏以外が、自分以外が、彼女とキスをするなんて嫌だ。たとえ弟相手だとしても。
まだ手すら繋いでいやしないのに何故。
独占欲が強いのは何故。
少しシリアス思考になりつつも、洋平独特の口調がリビングに歌を作った。
「そうだよ良。結衣ちゃんは結衣ちゃんが大〜好きなお兄ちゃんとしかチューできないし、
結衣ちゃんはお兄ちゃんとしかチューしたくないんだよ、羨まし?」
わざと茶化して空気を乱す、でなければ拷問にすぎない。
ずるいとホッペを膨らませる少年の頭を掻き乱し、
「うらやまし? 可愛いー可愛い。お前には早いんだよ、その代わりい〜っぱい話聞かせてやるから、寝なさい。ほら、行こ」と、
わざと挑発するようにして、良平を武器に自室へ向かう背に――
『良平は先に寝て。洋平は待て』
父親らしい声にどつかれた。
なんだか先程から繰り広げられている茶番じみたアットホーム感が受け付けない方も、
しばし耐えていただきたい。
近藤家に介入して得はしないが損もしないだろうから、ちょっと野次馬魂程度に探ってみよう。



