それにしても、どうして弟は兄にべったりな生き物なのだろうか。
というよりも、なぜ張り合ってくるのだろう。
十六歳と八歳。九学年も離れているのだから、争うだけ無謀ではないか。
良平が洋平に勝る部分はせいぜい無垢な“天使ポイント”だけだ。
『お兄ちゃん結衣ちゃんいつ来るー?』
兄のベッドに居座りドヤ顔を披露する少年。
濡れた髪がプール上がりを連想させ、身内ながらに可愛いと思う。
彼が目の届く範囲内に居ると、ガチャガチャやキャンディタワーが馴染んで昼間のようだと錯覚しがちだ。
ラグジュアリー感を出そうとビジューを縫い付けている手を洋平は止めた。
スパンコールを上手に縫えるのが中国で、シルクに刺繍をするのが上手なのはインド、いや、逆だったろうか。
この前のファッション講演会で習ったのだけれど、まだまだ勉強が足りない洋平だ。
どちらにせよ自分はミシンがけや裁断よりも、
刺繍やボタンの取り付け――細々と手先を使う方が得意なようだ。
先日学校の先生に教え子の中で一番指先が器用だと褒められたので、
社交辞令にしろ嬉しかった。
服飾コースは教育面に恵まれている方だと思う。
とりあえず浅く広く知識や実技、センスの入口を広げてあるからか、興味分野や得意分野が見つけ易い。
また放課後は少し専門性の高い要素を織り交ぜてあるから、大変ためになる。
染色は有料だから迷う。したいことがたくさんだ。
パタンナーやショープランナー、テキスタイルデザイナーやスタイリスト、
たくさんの夢の中から何を選ぼう。
良平は可愛らしくプロ野球選手と歯医者さんとお寿司屋さんと天気予報士になると言っていた。
可愛い弟、近藤家の小さな天使。
「今日カラオケ行きましたー」
『ずるいずるいずるーい』
煩い良平が眠るベッド目がけて余った布を投げてやると、
何が笑えるのか、一人腹を抱えて悶えている。
こうやって無邪気な子供は賑やかに夜を壊したがるから、
太陽の下 仕事に励む大人たちは癒されるものなのだろう。



