「お姉ちゃんもうすぐ新居引っ越すからさー独身最後だしー?
奮発して衝動買い、高い、良い妹。エプロン三万円」
「、――は、……エプロン、に?、?」
小学生の家庭科で作ったエプロンを中学まで愛用していた洋平としては、
たかが薄い布切れに大金を叩く価値観に驚き、思わずブレーキをかけてタイヤの動きを封じた。
そして直ぐさま道端で停止した彼は、全く違うことを考えていた。
、俺ついてないわ
可哀相だろ俺。
そう、ついさっきくらいのスピードを出して漕いでいたなら、
結衣の衝動が背中にぶつかっただろうに、
あいにく彼女を配慮し安全ゆるゆる運転だったので、そのような嬉しいトラブルは起こらなかった。
低レベル選手権があるなら一番になれる自信がある。
、……てか三万、
エプロン、に……?
たかがエプロンに意味が分からなくて、もう一度価格を尋ねたけれども、やはり金額に間違いはなかった。
「でも縫い目とか凝ってて、凄い。すっごい計算されてて。そんで腰からのふんわり具合がやっぱ良い、あはは、ザ新妻」
雑念を振り払い気を取り直した洋平が、「シチュー作ったの味見してー? みたいな?」と、
いつもの調子で合いの手を入れると、
「そうそう、いちゃいちゃ。あなたお帰りなさい、ご飯、お風呂、それともアタシ〜?だよ、正に。あはは、やだーバカップル、ねー?」と、
うなじの辺りに結衣の弾んだお喋りが突き刺さるから罰ゲーム。
――今、顔面がどんな形を作っているのか不明だ。
とりあえず足を動かせば、再び流れはじめた世界。
じんわりとこめかみに垂れる汗を拭ってしまいたいのに、バランスを崩しそうだからか両手は離せなかった。



