犬のお散歩をするお年寄り並のペースで進む優しい彼氏は、
彼女の為にデコボコの少ない道を選んで、ハンドルを握っている。
駐車スペースが少ないドーナツ屋さんに行くなら、自転車はどこに置こうかと洋平が考えていると、
「んーパン屋さんかな、安くて美味しってー愛美が。貧乏ー、お金ない、ね、パンでも良い?」と、結衣が言った。
すっかり口の中はチョコレートだったので少し残念。
それでもお姫様のご機嫌取りが趣味な小間使いは、
パン屋さんならライ麦の何かがあればいいなと思っている。
あのほろ苦さと、噛んだ時のプチプチ感が好きだ。
華やかに健康的だと感じるから。
(パン屋さんでも甘いチョコ系はあるのに、結局ふわふわ変えるのが洋平)
「節約? たまには富豪な旦那サマが奢ろうか?」
月五万円のアルバイト代はいろいろ支出があるので、
正直男の洋平よりも彼女の方がお金にゆとりがあったりする。
(結衣は六万円くらいで一万円を携帯代と生活費に渡すだけで、後は自由に使うらしい為)
(それでも時々は奢るようにしているのだけれど。……月記念日は絶対)
今からデートをするのに手持ちがないと言われては困る。
少し振り向いたが、真後ろにいる結衣の顔は見えないし、
前方不注意で事故りそうだし、眼球が壊れそうだから大人しく進行方向を見た。
……。
今更になるが、彼女は二人乗りをしようとも荷台の部分を持つので、
彼氏は背中に有り難い熱を感じることはないのであった。
(洋平に肩入れしている人からすれば残念で、洋平が気に食わない人からすればざまあみろと思われていることだろう)



