筆箱で隠れるように携帯電話を机の角に立たせ、

五ミリ間隔に引かれた斜線の隙間を埋めるようノートに文字を詰め込んでいく。


プリクラを眺めなくとも、洋平は愛しの彼女の姿を容易に思い出すことが可能だ。

(なぜなら電車の待ち時間、アルバイト中、隙さえあれば気持ち悪いくらいデータフォルダを開いていたから)

好きな女は自分のストライクゾーンそのもの。

多分最初は顔を見るうちに気になるようになったのだと思う。

よく外見だけで惚れるのはオカシイと聞くけれど、

“気になる”の始まりは目からの情報しかないのだから仕方がないことだと思う――と、

純愛を主張したいので開き直っておこう。

(顔も性格全部好きだ。全部なんて知らないのに、全部好きなモチベーションだ)


  可愛いー可愛い……

可愛いという単語を付き合ってから何十回、いや何百回乱用したかは定かでない。

世間では女子高生が何にでもカワイイと言うとされているけれど、

男子高生だって彼女に限りカワイイと意味なく連呼してしまうものだ。

  かわいーなぁ

一般論では、なんでも恋をすると女の子はキラキラ変身するのだとか。

きっと彼氏が彼女を可愛いと思う分だけ、女の子はますます可愛く輝く生き物なのだと洋平は思う。

――なんて傲慢な持論に過ぎないが。


このように、平均的な高校生というものは、自己や他者や世間について客観視できているつもりになり、

大人的思考を持ったつもりになる――そう、早い話“痛い”って言葉がぴったりな人格になる。

本人は正しいと勘違いしている若気の至り、誰しも経験したのではないだろうか。

そこのところは是非とも大人になって『うふふ、可愛らしいこと』と、受け流していただきたい。