洋平がベタ惚れ中の結衣は、それなりに視野が広い女子高生だといえる。
純心とか天使とか天然とかのラブリーな類いでもないし、
だからといって、軽いとか男好きとかたらしとかのアダルトなカテゴリーでもない。
ある程度異性から好かれている現状がオイシイ事を知っているリアリストな面がある子。
カッコイイ先輩ウォッチングをしてチヤホヤされたり、新入生に目を付けられて憧れられたり、
そんな状況を楽しむナルシシズムは、皆にあるものだと洋平は思っている。
そう、結衣だけが驕り女ではなく、自分だって女子に好かれた方がポテンシャルが上がる故、
人間そんなもんだと位置づけているから普通のことだろう。
(その癖、好きでもない人に本気になられるのが嫌で優しくし過ぎない矛盾)
……。
けれども己を棚に上げ、時々結衣の広い世界を奪ってしまいたくなる。
他の男と接点を無くしてやりたくなる。
――それは我が儘なのだろうか。
階段を一段一段下りると、後ろめたさが増えるばかりだった。
『バイバイ近藤結衣』
靴箱前でスリッパからスニーカーに履き変えていると、
「あはは、ばいばい」
とある男子生徒が彼女に話しかけていた。
それを人は嫉妬と呼ぶのだろうか。
無意識に眉間にシワを寄せてしまっていた洋平は、慌てて(冷静を装い)C組の靴箱へと歩み寄る。
そこに居たのは――幸せそうにうっとりとした笑顔を作る大好きな結衣。
…………。
こちらに気が付いた少年が、『婿養子? 田上洋平』と、ネタを振ってきた。
砂糖とジャムと蜂蜜を煮詰めた鍋の中に小一時間浸かっていたかのような人を前に、
なんとなく心穏やかにはなれない。
雅――彼は結衣を喜ばせる為に自分たちカップルを褒めているような気がしなくもない。
他の男子と同様、彼女に好かれようとしているような?
笑ってさよならをする自分が、時々怖くなる。
とてつもなく執着しているのではないか、と。
どうして人は恋人を愛蔵したがるのだろうか。



