門限9時の領収書


思春期らしいお決まりの会話を前に、それでもにやけてしまうのは許してほしい。

まだ洋平はお子ちゃまだから仕方ないことだ。

(ほら、このように高校生は臨機応変に大人か子供に変身できる魔法使いだったりする)


『一年頃ちょっと田上さん狙ってたんだけどー、複雑。お前が相手とかねーわ、しばくぞ的な』

『ほんまそれ、普通科ん夢奪ったんだからちょっとはコンコン語りんさい』

一度は聞いたことがあるのではないだろうか、女からすればドン引きな男同士のヘビィなお喋りを。

咎めるように詰め寄るC組の二人は、結衣と付き合っている洋平に嫉妬をしているらしい。

どうやら自分の彼女は相当好かれていたらしく、そんな女の彼氏をできる――気分が良くなるのはやむを得ないだろう。


とはいえ、結衣に手を出せないでいる洋平は、決して彼らの夢をまだ破っていないのだから、

断じて死ぬ必要はないのだけれど。


それでも、たくさんの男が焦がれた価値ある女の恋人役なんて、ちょっと嬉しい。(本当はかなり)


一方で、自称・紳士を究めたい為、洋平はこの手の話が苦手だ。

凄く幼稚で面白みに欠けるから可能な限り避けるようにしている。

真っ直ぐな廊下には消防車のように赤い色をした消火器が並ぶ。

優越感真っ只中、どうやって下品な話題を変更しようか考えていると―――


「ごめん、お待たせ、ありがとー」


微笑む少女が瞳の端に浮かんだ。

姿を見ただけで、洋平の恋心は輪郭をなくすくらい蕩けるから大変。


 あ、良かった

あっという間に結衣が世界を動かし、蛍光灯の面がプラネタリウムに早変わり。

キラキラ輝く彼女は麗しい一番星。


「愛しのハニーが来たので失礼します」

嫌な空気から逃げる切り札を見つけ、

洋平はわざと茶化して二人の男子生徒に言葉を与えた。

(男子ビジョンで)天使な結衣を前にすれば、異性は“いい男”ぶると分かっていたからだ。