ここはC組の教室前――
校舎が違う人物が廊下に居るだけで異物らしく、必要以上にちらちらちらちら見られるので恥ずかしい。
前髪で顔を隠すように洋平は下を向き、
用もないのに携帯電話を開いてメールを打っているふりをした。
指先が歌うのは無意味な言葉。
予測変換がおかしな文章を勝手に打ち、タと入力すれば、《田上さんって可愛いよな》と続いた。
……はて、いつ誰に送ったのか。
こんな直球を本人に送るはずがないし、雅も違うし――記憶にないが打った形跡がある不思議。
、んー……まだかな
突然、玩具箱をひっくり返したようなノイズがして、
彼女のクラスであるC組の生徒の波がこちらへと一斉に押し寄せ始める。
どうやら帰りの会がやっと終了したようだ。
重力がないのか天に伸びた(無駄に長い)髪をした男、ほわんとした特徴ある髪をした女、
綺麗に膨らんだポンパドールをした女、ウケ狙いで角刈りをした男――
皆が靴箱へと向かう中、暇な洋平は結衣を待っていた。
……。
ひそひそと噂をされる感じがこそぐったい。
他校舎の洋平、言うならば異星人。
『コンコーン、カノジョ絶賛説教中だからな』――無駄に茶化す奴あり、
『彼女待ちとはかいがいしいな』――センス悪く弄る奴あり、
『良いなー、結衣カレ』――恋人関係を羨む奴あり、
「あはは、まあまあ」――限度なくニヤける男あり。
こういう時――洋平が付き合っていると実感する幸福の瞬間だった。
二人の世界ではなく、皆の生活の中で恋愛をできている感覚が凄く嬉しい。
学生らしさが好きだ。
きっとローファーの踵を踏み潰す年頃を終えた大人たちが焦がれるであろう教室特有の雰囲気。



