門限9時の領収書


「好きだからさーなんでこんな好きなんだろーとか。考えて……

でもキスとかしたら? 勿体ないかなーとか。出来ない、したい癖にまだしたくない、分かる? 複雑なハートが、あはは」


自分でも洋平ははっきりとした答えが出せなかった。

ただ、少しだけ分かることはある。

勿体ない。あの子とのファーストキスは一回きりなのだということ。

それを易々貰ってしまっては、次がないではないか。


貴重な初めてを勢いに任せるのか、理性に任せるのか。

彼氏の腕が試されると洋平は浅い持論を基本に考えている。


例えば料理。

レシピでは中火で二十分だからと文字に従い様子を見ずに、煮込み時間を使い効率よく洗濯物を畳むのか、

あるいは時々具合を見つつ、二十分間火加減を調整して時間を費やすのか。

――どちらがより美味しく調理できるのか。


曖昧な返事をする雅。
彼ならどうするのかと考えたら、答えは自ずと見つかった。

きっと待つと思う。
彼が自分ならば、結衣の気持ちを聞かずとも、理解してあげるのだと思う。

巡り巡って、ようやくそれが真の王子様なのだという結論に辿りついた。


酔っ払いのように地べたに座り、駄々っ子が甘えるようにして雅の足に顔を擦り寄せる。

サッカー部の連中が、見てはいけないものを見るように二度見したあと、

早足で通り過ぎて行くから可笑しかった。


「雅ー、俺……好きなんだよ、ばりばり。ピカデリーくらい好きなんだ」

この発言から、彼が好きなのは親友なのか彼女なのか。

どちらなのか問わなくとも、察しが良い方には伝わっていることだろう。


黒に染まりつつある世界の下、洋平は幸せを噛み締めていた。

毎回タイミングよく一番星を見つけられる人は、

長時間ただただ辛抱強く空を凝視し、ひたすら待機している暇人なのだろうか。