……。

気持ち悪い奴だと引かれたかもしれない……洋平は無意識に唇を噛んでいた。


結衣が好きだ。
どうしようもなく好きだ。
今のままの付き合いでも幸せだ。
むしろこれ以上の幸福なんて想像できない。


最終下校のチャイムに押し出されたらしく、校庭には本格派の部活をしている生徒の軍団が溢れ出す。


現実逃避か運動場を眺めている洋平の首の裏にぶつかったのは友人の声。

『全然良いじゃん、立派。体目当てじゃないとか、はは。先生から褒め讃えられるよ。あはは。

洋平みたいな硬派?、好きだよー、みたいな。あはは』


何よりも嬉しい言葉。
一番欲しかった言葉。


振り向けば、もうだめだった。

女が恋に落ちるかのように、ふにゃりと柔らかく笑う雅の瞳に洋平は吸い込まれていた。

綺麗な丸は終わりがないくらいに深く、浅い人生しか歩んでいない自分には迷宮のようで怖い。


どうして彼がいつも笑っているのかなんて知らないものの、

愛に飢えた子供が両親に好かれようと必死で笑顔を振り撒いているような気がしなくもなく。

茶髪の少年を通して、洋平は不意に黒髪の少年を思い出し、一人頭を振った。

  ……デジャヴュ


赤ちゃんの泣き声は母親が一番不快に思う音色だそうで、

だから本能的に赤ちゃんは自己主張をしていることになり、

必然的に母性本能が働くのか、泣き止ませようと小さなサインに気付くのだとか。

……なんて中学校の担任が言っていただけなので定かではないけれど。


忘れるようにしていた記憶に刺激され足首が痛むなんて、

自分は繊細ではないからどうせ勘違いなのだろう。


雅は母親を困らせないよう泣いたりせず、いつも笑っている子供だったはずだと勝手に解釈した。

……小さな少年は儚い。


王子様は白目が白いのだと、無垢な丸い瞳に当たり前の感想を持つ洋平は、もう一度耳を引っ張ってみた。