離れ校舎を後にし、仲良しこよしな雅と洋平は二人、自転車置場へと向かう。

この時間帯になると電車の乗り換えが楽になるので帰宅が楽だ。


夕方の空は誰のもの?

たくさんのコピー用紙を抱えているだけで、デザインした中から作りたいものが分からない。

意識が散漫して、ちっとも本気になれなかったからだ。


『洋平なんか今日駄目だね』

のんびりと歩く茶髪の少年は、脈絡なく口にした。

約二時間ぶりの会話。
それは一見、黒髪の少年の作業が進まなかったことを指しているように思える。

だが、市井雅という人間が紡ぐ言葉はいつも裏があるから、結局伝えたいことは用件と別なのだ。


 …………。

運動場の砂から小石を探し、スニーカーの先で軽く蹴ると、

ブラウンシュガーの粉みたいな中に消えていくだけだった。


「勿体振らずに言えば。」

少し語尾を上げ、咎めるように洋平は苛立ちをぶつけてしまっていた。

逆ギレではなく単なる八つ当たりであろうが、放ったからには後に引けない。

己のわがまま加減にドン引きしながら、不機嫌さ全開で洋平は雅を見据えた。


『あはは。うん、だから手さえ繋げてない』


じっとりとした風に髪を根本からさらわれる。

空気中に水分が多く含まれていると香りだけでなんとなく分かるのは、

自然いっぱい田舎で育った証なのだろうか。


か細く回る車輪の影は、暗闇に馴染んでいく。

そして、徐々に友人の笑顔が黒に奪われていくから、洋平としては居心地が悪かった。



――それは土曜日のこと。

初めて彼女を自宅に招いたというのに、彼氏は何もできなかった。

服を脱がせることも、唇を重ねることも、そして当然 初歩的な手を繋ぐことさえも。

何もできなかった。
恋人らしいことを何もできなかった。


考える必要はない、原因は一つ。