「あなたとはもう、付き合えない」

小さな喫茶店の中、女は俯きながらそう言った。

「理由は?」

女の言葉を聴いたところで、感情が揺れ動かない。

どんな理由であろうと、動じない自信はあるだろう。

「あなたは優しい。でも、時折見せる顔が怖いの。結婚までは考えられない」

「時折見せる顔、ね」

「怒ったりとか、そういうのじゃないの。何を考えてるか分からない、そんな顔が怖いの」

また、同じ理由だ。

好きとか嫌いとかの領域ではないらしい。

無意識に出る表情が恐怖を感じさせるのか。

「ごめん」

女はお金だけを置いて席を立ち、姿を消した。

残された俺に成す術はない。

ただ、考える事は出来る。

自分が無意識下に見せる表情。

それは、何かが足りてないからこそ、求める顔。

それは、生きているという感情を感じない顔。

別の事を考えていても、その顔は出てしまっているのか。

何度となく考えて、出た答えだ。

無意識である以上、強く意識すればなんとかなりそうだ。

しかし、指摘されるという事は、改善するつもりはないという事である。

「俺に足りない物」

仕事をして、付き合っている女と会う生活。

それが普通の事で、当たり前の毎日になっていた。

そこに足りない物。

過去にはあって、今にはない。

それは、何となく理解していた。

『戦』だ。