鼓膜に響くのは、夏の暑さに掻き立てられた蝉の鳴き声と、エアコンから産出される涼しい風の音だけだった。
脳内を占めるのは、昨日から読み耽っていた小説のラストシーン。

そんな終わり方、ありなんだ.....。

さっきから、その小説のラストシーンがどうにも気になっていた。
僕だったら、あんな風にはしないだろうなぁ。

ここにいるのは、そんな僕一人。
他には誰もいないし、誰も来ない。
一応都会みたいなところに住んでいるのに、こんな生活ができるなんて。
今までよく生きてこれたなぁ、僕は。

友達もいた気がしないし、まして恋人なんていないはず。
家族はどうしたっけ……。

きっと、僕みたいな人を人間失格と呼ぶんだろう。
自分で確信するあたり、好きでこんな人生を歩んでいるんだなぁ。
なら、問題も無いかな。

さて、やっぱり小説に納得がいかないけれど、睡魔が僕を襲うから抗うことなく従おうかな。
寝るのも放棄して読んでいたから、睡眠が足りない。

たいして開いていなかった瞳を閉じて、意識を手放そうとした瞬間。

玄関のドアをもの凄い勢いで叩く、4年と5ヶ月13日振りの訪問者。

そんな訪問者に驚いて、寝ぼけ眼だった僕は両目を見開いた。
これでもか、ってくらいに。

一体どなた、かな……。

僕の家に来るなんて、珍しい人だ。

重たい体の中を緊張が駆け回る。
人に会うの、久しぶりすぎて……。
それらは収集をつけることができずに、溢れた。
そして、ソファに横たわったままだった僕の体を、やっと起動させた。

ドアを叩く音は、鳴り止むどころか勢いを増すばかりで、諦めるという選択肢は無いようだ。
自惚れではなく、訪問者は何がなんでも僕に会いたいみたいだ。

それにしても、僕の家ってチャイムみたいなの無かったかな。
あった気がするんだけど、自信が無い。